観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル事業」実地研修を開催
観光庁が進める「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル事業」の富士山地域プロジェクトにおいて、当会では地域観光人材育成ワーキンググループのとりまとめを担当させて頂いております。去る10月24日(金)に、身延山宿坊覚林坊様と富士吉田ホテル鐘山苑様を訪問させて頂き、実地研修を開催致しました。
人口減少が進む地方において、中でも若年層の労働力確保に苦しむ旅館業にあって、高付加価値のインバウンド誘客に成果を上げている施設は、人材の確保、育成、活用にどんな工夫を凝らしているのか、現場を見学させて頂き、キーパーソンのお話しを伺いました。
日本仏教三大霊山のひとつとされる身延山は、日本人一般の宗教的関心の低下に伴い、信者の団体参拝など来訪者の減少が進む中で、文化的志向の高い欧米系インバウンドの関心を集め始めています。そんな中、伝統的な仏教文化・宿坊文化を少しでも快適な滞在環境の中で体験して貰おうと、宿坊覚林坊様では10年間工夫を重ねて来られました。奇を衒わず「地域に今あるもの」を体験として楽しんで貰えるよう磨き上げ、今では地域を楽しむ体験プログラムは40種類にものぼり、宿泊者の2割以上が何かしらの体験を申し込まれるようになりました。
求人を出しても応募者が集まらない中、「お寺で働きながら旅を楽しみたい」欧米系のワーキングホリデーの若者たちに着目し、1か月から3か月間滞在しながら日々のオペレーションを担う常時10名のチームを編成するところまで仕組みを整備されました。文化的背景の違いから、様々な問題に直面しながらも、大家族のようなチームを作り上げ、別の地域に行っても、更には帰国しても、また「帰ってくる」メンバーも珍しくありません。
そうした「何か面白そうなことが起きている」「日本にいながら海外留学しているよう」という雰囲気が、地元の若者や、移住者の若者を惹きつけ、若い日本人スタッフもこの輪に加わってくれるようになりました。樋口純子女将の「若い人に来て貰いたいなら、ワクワクする『未来』を見せてあげることが必要」とのフィロソフィーが、大変印象的でした。
午後は、富士山を望む和風旅館式ホテルの富士吉田ホテル鐘山苑にお邪魔しました。二万坪の広大な日本庭園や豊富な温泉で有名なお宿で、旅館百選のトップの常連でもあります。ハードだけではなく、本格的な和太鼓パフォーマンス、KIMONO BOUTIQUE、地域のワインを楽しめるワインテイスティングラウンジ、地元の人が企画し案内するエコツアーなど、ソフトにも注力され、高付加価値インバウンドゲストの間で圧倒的な支持を得ています。
キーパーソンの市川伸執行役員営業部長に、人材育成として取り組んでおられることを伺うと、日々の業務が忙し過ぎ、また会社の都合を「押し付ける」ような教育はできない世相にあって、「人材育成は特にしていない」とのお答えが返ってきました。
しかし、例えば、ソムリエが山梨にある100か所のワイナリーに足を運んで醸造家の話を聞き、ワインテイスティングラウンジにフィーチャーする一本を一緒に選んだり、また、地元でさまざまな活動をされている方が「これはエコツアーとして仕立てられなだろうか」と相談に来たりするようになってきていることは、「視点を変えれば、地域全体が貴重な人材と言えるのではないでしょうか」、とのお話しを伺い、目から鱗が落ちる思いでした。
今、鐘山苑様では地域のワイナリーのワインを紹介するYouTubeチャンネル「山梨ワイン道場」を発信しています。市川様としては山梨のワイナリー、ワインのアーカイブになればとの思いと、「旅館には興味はないがワインは好き」といった新しい顧客層の開拓になればとの思いで、立ち上げて運営しておられます。これらの、伝統的な旅館の仕事とは異なる、様々な新しい取り組みを楽しみながらやっている姿を、若い人たちに見て貰いたい、と市川様はおっしゃいます。「接客は苦手だけどYouTubeの制作はやってみたい」「ベッドメーキングは苦手だけどワインには興味がある」という若い人が出てきてくれることを待っています、と、お話しを締めくくられ、再び目から鱗の思いでした。
地域全体が人的リソース。若い人に未来を見せる。二つの施設にお邪魔して、その真剣な取り組みが、図らずも同じところを目指していることに感銘を受けました。私たちも、地域のインバウンドプロフェッショナルとして、その取り組みの一翼を担って行きたいとの思いを新たに致しました。

