観光庁「地方における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル事業」コンテンツ体験・ワークショップ研修を実施
11月14日(金)に、観光庁「富士山地域における高付加価値なインバウンド観光地づくりモデル事業」の活動の一環として、当会が事務局を務める地域観光人材育成ワーキンググループ主催で、地域のコンテンツ体験とそれに基づくワークショップ研修を実施しました。
静岡県御殿場市、かつて伊勢神宮の荘園があったために「御厨地方」と呼ばれていた地に、江戸時代から続く伝統的な「天然阿波藍灰汁発酵建」の藍染を今なおそのまま引き継ぐ、創業160年の正藍染小原屋様の工房にお邪魔しました。四代目の小原博康様のお話しを伺いながら、工房を見学し、代々受け継がれてきた貴重な型紙の実物を見せて頂き、跡を継がれる五代目の小原康之介様のご指導で実際に藍染を体験させて頂きました。
インディゴ染めは、世界各地でその防虫、殺菌効果や、生地の堅牢化効果などの効能が着目され、インディゴ色素を含むさまざまな植物を使って染色文化を発達させてきました。しかし、色素が、空気に触れた瞬間に発色して、水溶性でなくなる性質を持つために、染料として利用することが大変難しいことから、古代においては「高貴な色」とされていました。
日本においては、タデ科の藍を原材料とし、微生物による発酵力を借りることで、藍の葉に含まれる色素を染料として利用できる形にする技法が発達してきました。江戸時代に木綿生地が庶民でも安価に手に入るようになると、一気に「庶民の色」として町や村の風景や、そこを行き交う人々を染め上げました。染色の工程で使われるのは、植物の藍、発酵作用を担う発酵菌、発酵菌の餌になるふすまや酒、そして発酵菌にとって快適なpH環境を整える灰汁。どれも全て自然から生まれ、自然に還るものばかりです。灰汁をつくるために大量に必要になる木材の燃え殻は、日常生活の中で大量に生まれ、灰屋さんが買い取りに回り、農家の肥料、陶磁器の釉薬、そして藍染の紺屋さんに販売されて行きました。色々な産業が、自然なリサイクルシステムの中で成り立っていたのです。
後継ぎの五代目康之介様に伺うと、発酵菌が元気に活動してくれる「ちょうどいい塩梅」を、試行錯誤の積み重ねで体感的に体得して行くしかない、染めに30年、織りに30年、分かった頃には後継者が育ち始めていなければならない、と仰ってくださいました。
実用的染色技術としては、20世紀初頭には完全に化学染料に取って替わられてしまい、経済合理性を失った今、藍農家が5軒になり、藍を発行させて作る原料の「蒅(すくも)」が作れなくなり、木灰が出なくなったために灰汁が作れなくなりつつあります。伝統的な藍染を支える「生態系」が存立の危機に瀕しています。「厳しい時代ですが、私たちの立場で、できることを続けて行こうと思います」と、小原屋さんは仰います。インバウンド観光に携わる私たちとしても、この実用的染色技術だけにとどまらない、伝統的な藍染「Japan Blue」の価値を、いかに世界の人々に再発見して貰い、新たな価値を生み出して行くか、真剣に考え、行動して行きたいと思いました。
この体験を踏まえて、9月の座学研修で講師を務めてくださった元ミシュランガイド事業部長(現株式会社NKBアドバイザー)の森田哲史様に再登壇頂き、この体験を、どのように欧米系高付加価値インバウンドのお客様にとって、「心が動く」瞬間とすることができるかについて、ワークショップを実施して頂きました。
森田様は、まずはお客様と日本の伝統的藍染との接点を作ることが大切と、教えてくださいました。そのために、お客様が知っている歴史や文化、人物を登場させることを提案されました。
インディゴ染めが、日本だけではなく、世界各地で工夫され発達してきた染色文化であることを前提として、ご自身であれば、プロヴァンス地方の特徴的な青色は、このインディゴ色素の防虫、防腐効果に着目して広まったものであることや、サボンドマルセイユとして有名なマルセイユの特産品の石鹸も、肉を焼く時に出た油と、薪の燃え殻の灰汁が合わさったものが、汚れを落とす効果があることに気付いて作られるようになったことなどを語ることで、これから体験する藍染がフランスからのゲストにとっても、身近な存在であるとの意識を持って貰うことから始めると、ストーリー例を挙げてくださいました。
また身近な登場人物として、日本文化に関心の高い欧米人であればまず知っているであろうラフカディオ・ハーンを挙げられました。彼は、「まるでなにもかも、小さな妖精の国のようだ」「青い屋根の小さな家屋、青いのれんのかかった小さな店舗、その前で青い着物姿の小柄な売り子が微笑んでいる」「見渡すかぎり幟が翻り、濃紺ののれんが揺れている」「着物の多数を占める濃紺色は、のれんにも同じように幅を利かせている」「名画のような町並みの美しさ」と、日本を風景を彩る藍染の色を絶賛しています。
そして、欧米人誰もが興味のあるサムライに関する話題として、鎧の下の肌着が藍染であったことを紹介し、藍色素の殺菌力に着目していたことを話し、日本の伝統的藍染め文化への関心を高めて行く、というストーリー展開例をお話ししてくださいました。
日本の伝統文化の本物の現場を実際に体験し、その「素材」を、どのようにお客様に価値コミュニケーションできる「コンテンツ」に仕立て上げられるか。そのプロセスや考え方について、深く学ぶことができた、大変貴重な研修会となりました。




